Harpsichordist TOMOKO MATSUOKA
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          イタリア便り
 
2010.1.28 N.25
「テクニックは音楽を作ってから」


2010年、皆さんはどのように迎えられましたか?
私は、クリスマスと年末を家族とバルセロナで過ごした後、 新年はイタリアのピアチェンツァで迎えました。9日にバルセロナに戻ってからは、 レポート提出と試験勉強、19日には演奏会があり、徹夜が続いた上に、連日のリハーサルで、 かなり体にきましたが、何とか乗り越えました。
本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

今週は、日曜日からハイドンの人形歌劇「フィレモンとバウチス」のリハーサルが始まり、 明日いよいよ本番です。予定していた指揮者が急遽病気のために来られなくなり、 Esmucのヴァイオリン教授が代役を務めることになるなど、いろいろハプニングがありましたが、 明日は何とか本番を迎えられそうです。

人形劇は、18世紀のウィーンで大流行し、ハイドンが仕えていたエステルハージー候の 屋敷には特製の人形劇場があったそうです。ハイドンが作った6作品のうち、唯一現存する 「フィレモンとバウチス」は1773年にマリア・テレジア女帝のために作曲されました。
実際にマリオネットを使い、劇俳優さんたちがそれらを操りながら生き生きを会話をするのを観るのは、 とても興味深いです。マリオネットは、音楽や歌にあわせて動きます。 恥ずかしながら、ハイドンが人形歌劇を作っていたことなど知りませんでした。

Esmucでは、多くの先生方のレッスンを受けましたが、中でもイタリア人のヒストリカルクラリネット 奏者のロレンツォ・コッポラ氏との出会いは強烈でした。 楽器の歴史上、彼のレッスンはハイドン、モーツァルト以降のレパートリーになるので、 私はフォルテピアノで参加しています。先週の室内楽のレッスンで、 先生がとても印象的なことをおっしゃっていたので、ご紹介します。

「テクニックは、目指す音楽像がはっきりしてから、それに向かって練習すればよい。 しかし多くの場合、その逆で、まずテクニックを完璧にしてからレッスンに来る。そうすると、 いくらレッスンで音楽的なことを学ぼうとしても、1日に何時間も練習して一度身に着けた 演奏方法しかできなくなり、それでは遅すぎる」と。

私も、子供の頃から、レッスンで弾けない音があったり、何かを間違えたり、 符読みが出来ていないなどもってのほか、というのが普通の感覚でしたので、 ある意味、すごく新鮮でした。このようなことを、ロレンツォのような、 音楽的にもテクニック的にももう本当に素晴らしく勤勉な演奏家に言われると、 すごく説得力があるのです。

良く考えると、「それでは遅すぎる・・・」というのは、すごく深刻なことのように思います。 国際コンクールなどで、テクニックは完璧だけれど、音楽性に欠ける日本人の演奏傾向とかぶり、 ドキッとします。

その日のレッスンでは、ベートーヴェンのクラリネットトリオを演奏したのですが、 クラリネットの生徒さんが曲を決めたのが2日前で、誰もまともに準備することができなかったので、 レッスンは符読み大会でした。それでも、興奮と感動と鳥肌ものの2時間で、 その音楽的内容の濃さ、様々な試み、追求をして、皆で模索して、本当に面白いレッスンでした。
符読みの段階で、こんなに掘り下げることが出来るんだなと思いました。また、 音が全然弾けなくても、テンポで弾いて曲を想像したりしました。

時間が出来たときに、それに向かって、ゆっくり練習しようと思いました。
すごく、意味のあるレッスンでした。

 
 

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